煌Side
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芹霞は、玲の処からまだ戻らねえ。


櫂への忠義故に芹霞を弾いたらしい玲が、誤解したままの芹霞と、このままのぎくしゃくとした関係でいるのが何とも可哀相で…多分、玲の様子見にかこつけて、仲直りしに行くつもりだろう芹霞を止めなかった。


櫂も判っていたんだろう。



聡明な玲なのだから、もっと上手く立ち回ることも出来るように思えるけれど、元々あいつは何でも1人で抱え込み、自己犠牲によって皆を救おうとした困った処がある。


もっと俺達を頼ればいいのに、それが出来ねえのは、我慢ばかりを強いられてきた窮屈な生き方に問題があるんだろう。


白い…夢の王子様は、不器用すぎるんだ。


自己犠牲は――

時に美徳であるんだろうけれど、それを貫くには玲の心は繊細で。


あいつ…どんな思いで、芹霞を弾いていたのか。


櫂の身分が剥奪されていたのを知りながら、どんな思いで櫂を守ろうとしていたのか。


緋狭姉が…久涅に仕えているのを見て驚いた様子もないのなら、既に判っていたのだろう。


どんな思いで事実を受け止めていたのか。


1人で何でも背負い込んで、お前は俺達を傷つけまいと守っていた気だろうけれど、それが判って誰が喜ぶかよ、感謝するかよ。


だからこそ。


玲の不可解な行動の意味が判った今、玲には芹霞が必要だと思ったんだ。


お前、苦しんだんだろう?


肉体的にも精神的にも。


特別ボーナスだよ、ちくしょう。


「煌、お前…玲が好きなんだな」


芹霞が帰らぬことに、次第に気分を降下させ、ふて腐れていじけ気味の俺。


櫂が笑った。


「嫌いなら、誰が芹霞を行かせるかよ。

いい気味だって笑って、もっとあいつらの関係、こじらせるよ」


あいつはSだし。

俺やられてばっかだし。


芹霞にべたべた触って貰えるし。

べたべた触っても、芹霞は嫌がらないし。


文句を言ったら際限がないけれど。


だけど――

嫌えるわけがねえ。


「邪魔しに行かねえお前もそうなんだろうよ、櫂」


「ああ…」


俺達は、苦々しい笑いを見せた。