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玲くん具合悪くなって倒れているんじゃないだろうか。


そう思って駆けつけた浴室(バスルーム)。



流れ続けるシャワーの音だけが鳴り響いていて。


「……玲くん?」


少し躊躇いながら声をかけたけれど返答がない。


ドアは蒸気が篭って、中の様子がよく判らない。


水飛沫の音にあたしの声がかき消されているのか、それとも玲くんが倒れているのか、はたまた…あたしだから返事したくないと思っているのか。


最後の選択肢の可能性だけは、どうしても嫌だ。


あたしは判ったから。


玲くんは、櫂を守る取引条件として、あたしを避けていたことに。


あたしは――嬉しかった。


玲くんは、きっと"仕方がなく"あたしを避けていて、それは彼の本心じゃなかったんだって…そう信じたかったのかも知れない。


早く玲くんと仲直りして、以前のようににっこりほっこり笑いかけて貰いたかったけれど、実際…玲くんと話す処の話じゃなくて。


櫂の窮地に、あたしのことなんて二の次にしないと。


由香ちゃんが玲くんが遅いと言った時、仲直りするなら今がチャンスだと思ったんだ。


この機を逃したら、玲くんとの距離はあいたままの気がしたから。


だから、赴いた浴室だったけれど…全然玲くんからの返答がないことが、あたしの中で…否定したい不安だけをむくむくと育てた。


玲くん…この時だから調度いいって、本当にあたしを遠ざけようとしていたんじゃないだろうか。


そんな時、聞こえたんだ。



「芹霞――…

僕を…嫌わないでくれ。


せめて…前みたいに…僕に笑顔を見せてよ」



あたしの言葉は玲くんを傷つけていた。


そう思ったら、いても立ってもいられなくて――ドアを開けて、力いっぱい玲くんに抱きつきながら謝った。