「なあ小猿…《妖魔》ってなんだよ、その胡散臭いの」


「悪魔みたいな奴だよ。姿がない…ん、悪霊みたいといえばいいのかな。それが人間に取り憑けば、人間が狂って殺しまくるんだ。

2ヶ月前、兄上達が巻き込まれたあの災害。実はここだけの話、《妖魔》に取り憑かれた集団が蔓延っていたんだ。それを皇城が随分と闘っていたらしいぞ。それが表に出ないのは、皇城の力なんだ」


俺達は顔を見合わせて、苦く笑う他なく。


あの"生ける屍"の姿が、翠の言う"《妖魔》に取り憑かれた集団"だというのなら、群集心理と片付けられた…あの夥(おびただ)しい数の屍集団が東京から忽然と消えた不可解な理由は、皇城の力によるものと…説明付けられなくもないけれど。


「皇城文書っていうのがあってさ、

『《妖魔》、其は太古より闇に棲息せし邪悪なる幻妖。其の姿、真に視るに能わず。我ら皇城伝承曰く、《妖魔》人に忍びて其の体して、殺戮の限りを尽くす。狂暴なる其の狂態、其れ《妖魔》顕現せし姿にて、来るべき刻の礎なるもの也』


これを元に皇城は《妖魔》を祓っているんだけれど…同じ指針を持つのが現われたんだ」


そして少し間を置いて、続ける。


「黄幡会、だよ。経緯など詳細は俺は判らないけれど、経典が同じ文句でいて、無関係でしたっていうのは無理あるだろう…。だからさ、黄幡会の動きは特に目をつけていたというか」


「"来るべき刻"とは?」


俺の質問に、翠は首を振った。


「俺…勉強が嫌いで、歴史とか意味とか…判らないんだよ。実際…《妖魔》狩りっていう実戦もしないまま、大八位になっちまったし…」



「お前達が桜華にいたのは、黄幡会の教祖だった一縷を調べる為だったのか?」


「いいや、周涅の陰謀だよ。ただ、独自に紫茉と聞き込みはしていても、教祖だった一縷は既に死んでいた上、全然情報が出なかったんだ。出ないというか…情報が一定していないというか。まるで皆、ばらばらなことを言うからさ。

とにかくま、カリスマ性は相当強い美女だったらしい。占い師だとか魔女だとか…何か不思議な力は持っていて、悩める人間を黄幡会に連れては、願いを叶えていたらしい」