「使えよ」


皇城翠が、緑色のハンカチを私に差し出した。


「え?」


「拭けよ、涙」


言われて初めて…

私は目尻から涙を零れていたのを知る。


気付かなかった。


「お前…仲間に恵まれてるな」


羨ましそうな翠の声に――


私は…深く頷いた。


きっと…櫂様の人徳だろう。


櫂様が…当主や久涅のようであったら。


警護団は一時であろうと、見逃したりはしない。


櫂様は…

やはり、紫堂にとって必要な方なんだ。


再認識する。


「?? なあ葉山、ズボンから何か落っこちそうだぞ?」


皇城翠の声に、ズボンのポケットを見れば、コルク栓が見えていた。


これは…"あの薬"が入った最後の小瓶で。



「!!!」


それを取り出して見た私は、あまりの驚愕に、思わず片手で口を押さえた。


半分に減っていた。


私は――

飲んだ覚えはない。


栓はきちんとされ、零れた気配もない。


だとしたら。


私は玲様を見た。


玲様は櫂様と何かを話し込んでいて。


錯乱の影すら見せていない。


どくん。


どくん。


私の心臓が嫌な音をたてる。



――助けて…。



あれは――

夢ではなかったというのか?