「何故緋狭が、此の場にいるのかという顔をしているな?」



あまりの驚愕に言葉を発せられない私達に、投げられたのは当主の声。


「次期当主に仕えるのは、緋狭の務め。"かつて"お前も玲もそうだっただろう?」


強調される"かつて"という言葉。


当主が薄く笑って櫂様を見れば…彼はただ屈辱に唇を噛んで、詰るように緋狭様を見ていた。


櫂様が、信じ難い光景に…揺さぶられていた。



「なあ、緋狭。お前が仕えているのは誰だ?」


「久涅様です」


そのきっぱりとした物言いに、

私は絶望的な気分になった。


玲様にも櫂様にも見せたことない、完全に傅(かしづ)いた紅皇に。


事態は抗えきれぬほど切迫していることを知る。



「俺の為に、櫂を殺せるか?」



くつくつ、くつくつ。


久涅の笑いに。




「御意。次期当主たる久涅様の命令であれば」



ああ――

なんてこと。



悪夢だ。



「久涅様に仇為す者には、

どんな命でも奪いましょう」




夢なら早く醒めて欲しい。