桜Side
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私は――

元々、氷皇という男を信用していない。


毎度望みもしない登場があるのは、救い手としてではなく。

何か必然的な…私達を追い詰めるような"裏"があると、常々警戒してしまうのは私だけではないはずだ。


五皇自体、その出現は神出鬼没なれど。


何故氷皇がそうした提案をしたかを考える前に…


此処には居てはならない――


居て欲しくない人が現われてしまった。


後方に整列した紫堂の警護団を、割るようにして堂々と現われた隻腕の女性。


燃え盛る紅蓮の炎色。


慈愛深く、神々しい――


氷皇と双璧と呼ばれる最強の女性。


熾烈な赤色の外套を翻しながら、現われたのは…


五皇が1人、紅皇たる…緋狭様だ。



ありえない。

これこそ幻覚。


いつもの私ならそう思うだろうけれど…私が崩れる寸前、ぼやける視界にちらついた赤色。



――黄幡会本部へ。



聞き間違えあるあの声は。


私達に仇為した声の主は。



確かに――


緋狭様の声だった。



ずきずき、ずきずき。


私の…抉られた太股が痛み出す。


最近の私の痛覚は、絶えず飲み続けているあの薬で、幸いにも激痛さえ一過性のもので鎮痛化出来るけれど、突如走るこの痛みは…本当に傷口からもたらされるものなのか、自信がない。


「参るのが遅くなり申し訳ございませぬ」


片膝をついて、緋狭様は…当主と久涅だけに、恭しく頭を垂れた。


その光景は――


今まで私が見たことがない…明らかな主従関係があった。