「出来ません」
櫂は表情を変えずに、即座に突っぱねた。
「出来ぬというのなら、お前にチャンスはやらないが」
「出来ませ「判った」
櫂の言葉をかき消すように、芹霞が叫ぶ。
「あたしがあんたの元に行けば、櫂にチャンスくれるのね!!?」
ああ、本当にこいつは。
櫂のことになると体を張りやがる。
「駄目だ、お前は関係ない!!!」
「関係あるわ、あたしで櫂にチャンスが出来るなら、お安い御用よッッ!!」
こうなりゃ櫂の言葉だって聞かない。
昔からそういう奴だ、芹霞は。
お安い御用のわけ、ねえだろうがッッ!!!
どうすればいい?
俺は一体どうすれば!!?
「――待て」
当主が喧騒を制した。
「決定権は私にある。勝手なことは許さぬ」
あくまで、櫂を追放したいのか、この男…。
「さてさて、どうしましょうか、エディター?」
オッドアイのマスターが、上岐妙に苦笑した時。
「お家騒動は見苦しいね~、あはははは~」
ああ、いつかは現われると思っていたけれど。
やっぱ出てきやがった。
外套色に青く染まった、氷のような冷酷な男。

