シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

 
「紫堂全勢力をもし櫂が凌ぐことが出来るのなら、それだけの力量があるとして俺は引こう」


紫堂全勢力。


今まで櫂を守っていたものが全て、櫂に牙を剥くというのか。


「時間と労力の無駄だ。」


しかし当主はそれすら拒絶して。


「面白いじゃないですか、親父殿。櫂が自ら率いて拡大しようとした自慢の勢力が、櫂というたった1人の男を圧伏させる力を持てるか否か。櫂を何とかできねば、所詮それまでの弱体組織。ゆゆしき事態。これは紫堂の未来を占う意味でも、見物ですよ?」


違うと思った。

久涅は紫堂の未来を憂えて、提案したわけじゃねえ。


この下卑た笑いは、私的な…魂胆がある。


「受けましょう」


櫂が腕を組んでそう言った。


「それが俺のチャンスというのなら。受けて立ちましょう兄上。紫堂相手だろうと、必ず生き残ってみせる」


よからぬ予感は櫂も感じているはずだ。


当主に取り付く島もないのなら、確かに久涅の誘いに乗るしかないけれど。


久涅の申出は――

突破口になるか、罠になるか。
それは全て、櫂の力量次第。


久涅は愉快そうな笑いを浮かべ、そして言った。


「だが条件がある」


まるで、これが核心というように。


櫂が目を細めた。



「小娘を俺に寄越せ」



――それか。


この男まで、芹霞に執着するのか。