「紫堂全勢力をもし櫂が凌ぐことが出来るのなら、それだけの力量があるとして俺は引こう」
紫堂全勢力。
今まで櫂を守っていたものが全て、櫂に牙を剥くというのか。
「時間と労力の無駄だ。」
しかし当主はそれすら拒絶して。
「面白いじゃないですか、親父殿。櫂が自ら率いて拡大しようとした自慢の勢力が、櫂というたった1人の男を圧伏させる力を持てるか否か。櫂を何とかできねば、所詮それまでの弱体組織。ゆゆしき事態。これは紫堂の未来を占う意味でも、見物ですよ?」
違うと思った。
久涅は紫堂の未来を憂えて、提案したわけじゃねえ。
この下卑た笑いは、私的な…魂胆がある。
「受けましょう」
櫂が腕を組んでそう言った。
「それが俺のチャンスというのなら。受けて立ちましょう兄上。紫堂相手だろうと、必ず生き残ってみせる」
よからぬ予感は櫂も感じているはずだ。
当主に取り付く島もないのなら、確かに久涅の誘いに乗るしかないけれど。
久涅の申出は――
突破口になるか、罠になるか。
それは全て、櫂の力量次第。
久涅は愉快そうな笑いを浮かべ、そして言った。
「だが条件がある」
まるで、これが核心というように。
櫂が目を細めた。
「小娘を俺に寄越せ」
――それか。
この男まで、芹霞に執着するのか。

