「――去れ。
お前に、紫堂の敷居は跨(また)がさせぬ。
お前に紫堂を名乗ることを許さぬ」
酷え!!!
次期当主の座を剥奪された玲が冷遇されたのは知っている。
だけど櫂は当主の息子だ。
直系だぞ!!?
その時だった。
「それは、少しやりすぎではないでしょうか、紫堂当主」
女の声がしたのは。
現われたのは…
長い前髪とお下げ。
制裁者(アリス)のような白い制服を着た女。
…ん?
此の顔何処かで…。
「上岐妙…」
芹霞の小さな声が聞こえた。
ああ、玲が拾って病院に運んだあの女か。
何でこの場所に?
「これは"エディター"」
知り合いなのか、当主が会釈をした。
だけど何だ?
エディター?
どくん。
――エディターとディレクターに気をつけてね?
さっき…俺を助けた"あいつ"は、
そう言って無かったか?
「聞く処によれば、かつて紅皇の計らいにより玲さんを打ち負かした彼が、追放確実の玲さんを救いました。だとしたら、優しい彼にもそうした温情があってもよろしいのでは?」
何で、そんなことを知っている、この女。
敵か、味方か?
「それとも、この新たな次期当主には、それ程の慈悲心がないと? そんな者を次期当主に据えると?」
俺は…警戒した。
少なくともこの女の言葉で、当主が揺らいでいるのが判った。
俺がどんなに反抗しても言葉を取り消さなかった当主が、何でこの女の言葉には耳を傾けるんだ?

