シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

 

「私の決定にお前の意向など関係ない。

何度も言わせるな、次期当主は久涅だ。

お前は…私との約束を違えた」


「では、俺が芹霞に想いを告げなければ、俺は次期当主のままでいられたと?」


「……。……そうだ」


当主は僅かな間を経てから、断言する。


その時、無声音で動いた櫂の唇。


"どうだか"


一瞬だった。

それを見たのは、俺だけだったらしい。


櫂は、何事もなかったように笑った。



「それなら安心しました。

俺に落ち度がなく、それだけが理由であるならば。


俺は、想いを告げたことに後悔はありません」


きっぱりと櫂は言った。


俺は、複雑な心境だ。


全面的に櫂を応援したいのに、櫂は…恋敵でもあるから。


こういう風に、格好良く潔く…例えそれが窮地に追い込んだものであろうと、想いに偽りないと。


それだけ愛していると。


ヘタレな俺であれば、こんな侠気見せることできるだろうか。


ちらりと玲を見ると、玲は唇噛みしめながら櫂を見ている。


玲は、櫂と芹霞を盾に、芹霞から遠ざかるように脅されていただけだ。


芹霞を諦めていたわけではない。


だけど。


もし櫂が玲の立場であったなら。


きっとまた違う局面を迎えていたと思う。


櫂くらいにきっぱりと芹霞への想いを貫けたら、櫂の貪欲さがあったのなら。


きっと今頃は芹霞も櫂も傷つけることもなく、切り抜けられたのではないだろうか。


結局自分がしてきたことは何だったのか。


大事な奴らを追い込んだだけじゃないか。


きっと玲は自分を激しく責めている。


そして、俺みたいに…櫂を羨望しているはずだ。


櫂になりたいと。


芹霞は…俯いていた。


芹霞のことだ。


今まで判らなかったとはいえ、自分のせいでこんな事態になったのだと、自分を責めているんだろう。