――お前の次期当主の肩書きは、剥奪だ。


櫂は紫堂の為に頑張ってきた。

きちんと目に見える成果を残してきた。


――次期当主は、そこの久涅だ。


それが、ぽっと出の櫂の兄だかいう男にくれちまった親父。


俺には親父というものはいねえ。


だけど、櫂に向けているあの目が父親の目だというのなら、俺は生まれ変わっても父親なんかいらねえ。


しかも理由が、


櫂が芹霞に告ったから?

櫂が芹霞を手に入れられていないから?


冗談じゃねえ!!!


そんな約束事があったなんて、俺は初耳だったけれど…

ああだから櫂は、鈍感芹霞に今まで動かなかったんじゃなくて、動けなかったんだって納得する自分もいたけれど…


櫂を必要以上に煽っていたのは、俺や玲の横恋慕のせいもある。


櫂は。


自制心強い櫂が、約束事を破棄してまで…そんな行動をとらざるをえなかった。


櫂だって、『気高き獅子』だって、17歳の男なんだ。


櫂は紫堂の道具じゃねえ。

親父の玩具じゃねえ。


櫂の人格を否定し、理不尽なことを言い出す…父親という名の非情な化け物に、俺は怒りを抑えられなかった。


ショックなのは櫂だろう。


俺は、何としても櫂を助けてやりたかった。


玲も桜も、紫堂の枠に囚われているのなら、当主に刃向かえるのは…もと制裁者(アリス)の手余し者たる俺だけだ。


玲も桜もそれが判って居る。


本気で俺を止めようとはしていない。


皆、思いは同じだ。


いくら久涅が力づくで俺達を手に入れようとしても、俺達は櫂以外の男に仕えることはない。


それくらい、櫂は判っているだろう。


俺達の絆は、紫堂ではなく、櫂という男によって成り立つものだと。



櫂は――

突然微笑んだ。