俺は貪欲で。
欲しいものは全て欲しくて。
だから、あの言葉を蹴った。
願わなかった。
大事な奴らを助ける存在は、"誰か"ではなく常に"俺"でありたいと。
俺しかありえないと。
そんな慢心さが…生んだ事態だというのか。
もし――。
俺に反論する余地があるというのなら。
「父上は…ご存知なのか」
もしも。
水面下における久涅独自の動きで招いた現状であるならば、俺にはまだ救いがある。
次期当主の決定権は、現当主にあるのだから。
すると久涅は笑う。
「直接聞けばいいだろう、俺達の親父殿に。先刻から待ち兼ねているぞ、親父殿は」
まるで俺がそう言い出すことを予想していたかのように。
パチン。
久涅が指を鳴らせば、黒い壁が重い音をたてて横に開いた。
そこには、本家から消えた側近と共に立つ――
「父上」
その場の全員が全員、頭を垂らす。
久涅と、ただ狼狽して顔を見合わせる芹霞と遠坂と皇城翠を除いて。
こつこつこつ。
初老の厳めしい顔をした男は、規則正しい靴音を響かせる。
全身鳥肌が立つような威圧感。
毎回親父に対面する時に俺は感じる。
紫堂財閥、7代目当主。
荒くれ者の異能力者達を束ね上げている、相当な力量の持ち主。
俺は…親父の力を未だ見定めることは出来ない。
「親父殿。
弟にお聞かせ願いますか?」
久涅が頭を下げたのが判った。
逆に俺は顔をあげて、まっすぐ親父を見つめる。
昔から厳しいだけの――
愛情などまるで覚えたことのない、父親という名の男を。

