僕の目の前で、景色が変わっていく。
血塗られた部屋から、漆黒色の部屋へと。
そして壁には。
芹霞が抱き締めている、両手を広げた形で繋がれていた櫂がいた。
大丈夫、櫂の身体から血は流れていない。
だけど…端正な顔に、その頬には…殴られたような腫れがあった。
その部分に、芹霞は唇を寄せていて。
偶然か、必然か。
どちらにしても間違いなく、芹霞は自分で櫂を見つけたんだ。
僕でさえ、幻影に惑ったというのに。
芹霞に触れられない櫂の顔は、芹霞への切なる愛に溢れていて。
動かそうとする手からは鎖の音だけが鳴り響き、手枷からは血が滴り落ちる。
もどかしさに、櫂の顔が苦渋に歪む。
芹霞の言う通り、櫂はただ"待つ"だけの男じゃない。
自分で何とかしたいと思う男。
そして己の貪欲さを自力で満たす、そんな男。
そしてその貪欲の対象は、全て芹霞から始まっていて。
芹霞を手に入れるために、櫂は『気高き獅子』の異名を手にした。
櫂がどれだけ芹霞を愛しているのか、僕はよく判っている。
僕は櫂から直接聞いていたから。
どれだけの想いを抱えて、どれだけの覚悟をしているのか…僕は聞いていたから。
どれだけの努力を重ねたのか、そこまで櫂は口には出さないけれど、僕には判っているつもりだ。
並大抵の努力で、"次期当主"になんかなれやしないのだから。
芹霞が求める"永遠"を、誰以上に櫂自身が求めている。
櫂の恋情と、芹霞の心は繋がっている。
そう――思わずにいられない…2人の抱擁。
手を使えぬ櫂が、いとおしげに顔だけを傾け、芹霞が櫂の首筋にだきついて顔を埋めて。
それはあまりに自然すぎて――
ああ…
気が狂いそうだ!!!

