玲Side
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「――…櫂。


助けに来たよ。


――帰ろう?」



そう言って、芹霞は――


悪臭漂い…原形留めぬ醜悪な物体に―


迷うことなく唇を寄せた。



その声音。

その表情。

その仕草。



僕は――

動くことが出来なかった。



芹霞、芹霞。


今、君がどんな表情をしているか判っているのか?


目の前の腐乱死体が、櫂だと思えば…


ああ――

そんなに愛しく思えるの?


それを見ている立場なのが、

溜まらなく悔しい。


溜まらなく苦しい。


君にそんな顔をして貰えるのなら、

僕は腐乱死体にだってなりたい。



嫌だ。


櫂の処に行かないで。


こっち向いてよ、芹霞。


僕の処に来てよ。


もう一度、僕を見て…


――玲くん。


僕を頼りきった…

あの柔らかな笑顔を見せてよ。