「櫂、櫂!!!?」
あたしは玲くんを振り切って、櫂の元に駆け付けた。
何か声をかけられたけれど、応えている暇もなく、ただ必死で。
「櫂!!!」
両手を枷につながれたまま、力なく項垂れたその顔に…その冷たい頬に、両手を添えて顔を覗き込む。
虚ろな目。
浅い呼吸。
ああ、まだ生きている!!!
それだけで神様に感謝した。
体中の疵が酷い。
この床に散らばる刃物が、櫂の肉体を切り裂いたのか。
切り裂いただけではないと思う。
この肌の色…表皮の裂傷だけではない。
もっと深い処から覗く…肉の色。
櫂だと顔が判るだけ、救われているのかもしれない。
肉体の傷は、ホラー映画に出てくるみたいに凄惨すぎた。
痛ましすぎた。
あたしの手が、櫂の真紅色に染まっていく。
「櫂、ねえ櫂、しっかりして!!?」
一生懸命櫂の名前を呼んだ。
涙が止まらない。
「……れ…」
何かが聞こえる。
「櫂!!?」
「助けて…くれ…」
頼りなげな切れ長の瞳。
そこには今にも途絶えそうな、命の灯がある。
「助けて…」
か細い…懇願の声が聞こえると、
「あはははははは!!!」
極悪櫂の笑い声が響いて。
「どうだ、玲。
お前の大事な従弟が、助けを求めているぞ?
お前は、きちんと櫂を守れていたのか?」
あたしは櫂を見た。
四肢を繋がれ、身体中は血塗れで。
凄惨な拷問が加えられたのだろう。
「頼む…助けて…」
いまだかつて無い、『気高き獅子』の懇願に、
あたしは――
すっ…と、身体が冷えるのを感じた。