「あんた一体、誰よ!!?

あたしと櫂の…いいえ、櫂の一体何を知っているというのよ!!!」



「……俺に興味を持ったか、芹霞」



にやりとした笑いを見せた男に、


「は!! 誰が!!!」


思いきり、侮蔑の眼差しで睨みつけてやった。


「ははは。

そういう気の強さが…溜まらんなあ?」


しかし男の興味を深めただけらしい。


愉快そうに笑う極悪櫂が、あたしの顎を摘んで持ち上げた時。





「芹霞から離れろッッ!!!」




玲くんの声がした。



顔中汗を掻いて、整えたはずの呼吸は乱れていて。


全力疾走したような様子で、駆けつけてきてくれたのだろうことは判る。


入り口があっても出口が無くなったこの部屋に、飛び込んできてくれたことは判る。


判るけれど、今のあたしはそれに対して何の感慨もなく。


後ろから抱きついて引き寄せた玲くんの手の震えを、ぼんやりと他人事のように感じた。


嘘臭いと…感じてしまった。


そう思ってしまった自分を…無性に悲しく感じて。



「離して」



思った以上の低い声で、あたしは玲くんの手を払った。


玲くんが息を呑む音が聞こえる。



「離して。

聞こえなかった?」



もういい。


あたしを無理に心配なんかしてくなくてもいい。


どうせあたしは、玲くんにとっては他人で。


仮面つけて接しないといけない、そんな遠い存在。


本心隠して、無理に接しなくていいから。