「計都は…如月と言ったはずだけど?」
慎重に、あたしは言った。
こんな短期間で本名が割れたのだというのなら、相当な情報網があるというのだろうか。
「偽名なんぞ使うから…随分手間をかけさせられた。
しかもあの女…叩いても殴っても最後まで口を開かず気を失うからな。
手帳を見たら、プリクラとかいうお前の写真の横に、住所が書かれてあった」
あの女って…。
そんなもの持っている女って…。
「弥生!!?
あんた、弥生になんかしたの!!?」
「ああ、あの…清純ぶった女、そんな名前なのか」
くつくつくつ。
目を見れば判る。
やはりこの男は、人間を人間と思っていない。
怒りが湧く。
「どうしてそんなことを!!?」
「お前が気に入ったからだ。
調べさせてもお前に辿りつかない。
黄幡計都が見つからないなら、お前とあいつが出入りしていたらしい部屋の奴に、聞くしかないだろう?」
なんてこと。
こんな頭がおかしい男のストーカー被害に、弥生があったなんて。
「暴力なんて…ああ、弥生!!!」
あたしは思わず両手で顔を覆った。
「あんたを警察に突き出してやる!!!」
そう涙目で睨めば、
「どうぞ?
警察が動けばいいがな…?」
くつくつ、くつくつ。
「それだけ、紫堂財閥の力が大きいということ、櫂と共に居るお前なら、判っていただろう?」
「櫂はそんなことをしない!!!」
「どうかな? あいつだって、裏ではかなりのものさ」
「違う!!!」
「美化しすぎると、現実にぶちあたれば絶望するぞ? いつまでも可愛いお前の櫂ではないんだ。8年も経っているならな」
どうして――
見ず知らずの…
櫂と同じような顔をした男まで。
あたしから櫂を消そうとするの?
「まさかお前が、櫂の…"神崎芹霞"だったとはな。もっと早くに写真でも見ておけばよかった。所詮は17のガキだと、高を括りすぎていたようだ」
何より――
知ったような顔をされるのが、一番許せない。

