そして玲様は芹霞さんの元に行き、叩き付ける拳を手に取った。
「大丈夫、櫂は僕が助けるから。
君は安心して此処に居て」
「あたしも行く。あたしも櫂を助けに行く。あたしじっとしてられない、櫂に櫂に会って安心したい!!!」
玲様の顔が苛立ったように歪まれた。
「芹霞、僕を信じて「あたしも行く!!! 櫂を助ける!!! いつだってあたしは櫂を助けるんだから!!!」
泣き叫ぶ芹霞さんに――
まるで玲様は爆(は)ぜたかのように、
「君は櫂に近付くな!!!
近寄るんじゃないッッ!!!
過去がどうであれ、現在の君と櫂との間に確かなものなんて何もない!!!」
恫喝とも思えるような、荒げた声を発した。
「玲様!!?」
どうして…
そこまで芹霞さんに冷たい言葉を?
「そんなに――…
あたしと櫂を引き離したいの…?
玲くんにとって大事過ぎる櫂に、
あたしを近づけさせたくないの?」
芹霞さんはぽろぽろと涙を零した。
「あたしが…そんなに嫌い?」
途端、玲様ははっとされたように身体を震わせて。
「ち、違…そういう意味じゃ…」
「じゃあどういう意味なのよ!!!?」
「それは…」
言い淀んだ玲様から、出てくる言葉はなく。
「玲くんなんて…
玲くんなんて、大嫌いッッ!!!」
芹霞さんがそう叫んだ時。
ゴゴゴゴ。
突然壁が開いて。
それが何故なのか、何処に繋がっているかを確認するより早く、芹霞さんがその隙間から出て行ってしまって。
「芹霞!!!?」
手を伸した玲様が、慌てて芹霞さんの後をおいかけ、その隙間に身体を忍ばされた直後、
ゴゴゴゴ。
再び壁が閉まって。
私も慌てて後を追おうとしたけれど、もう壁は開かなかった。

