僕は咄嗟に芹霞に手を伸べた。


離れたくない。


僕は、あんな地底ではなく。


君と生きていたい。


欲しいのは君だけなんだ。



だけど芹霞はただ微笑むだけで、

そして――


いつの間にか手にしていた…赤い宝石箱を開いて見せた。



"ないの"



芹霞は困った顔をした。



"大切な思い出がない玲くんは、


あたし…いらない"



そして――

僕の横に居た…櫂に手を差し延べた。


僕は自分のことに夢中で、

櫂が一緒にいたことに気付かなくて。


壊れ行く…芹霞に続く道程は。


櫂だけが芹霞に辿り着き、そして愛おしい表情で芹霞を抱きしめ、荒々しく口付ける。


――愛してる、芹霞。


僕の…芹霞に。

僕が抱きしめるはずの芹霞に!!!


――うん、あたしも愛してる、櫂。


やめろやめろやめろッッッ!!!


必死に叫ぶ僕の元で、2人の激しい口づけは更に深さを増して。


――愛してる。


愛の言葉は粘着音と、乱れた…甘い吐息と変わりゆく。


芹霞!!


芹霞!!!


僕の名を呼んだあの芹霞は、もう僕を見向きもしない。


櫂だけを見て、櫂だけの名を叫んで。


櫂だけに愛を囁いて、櫂だけの愛を受入れて。


芹霞、行かないで芹霞!!!

櫂、僕の芹霞に触るな、触るんじゃない!!!


僕の声は届かない。

そして2人は僕から離れて行く。