「芹霞!! ほら行くぞ!!!」


煌が無理矢理あたしの手を掴んだ時、あたしの顔が自然沸騰する。


まるでいつもの煌のように。


そして、動けなくなる。

がちがちに固まってしまう。


「芹霞、お前どうしたんだ!!?」


腑に落ちないという煌の顔。


そりゃあそうでしょう。


あたしだってそうだもの。


「……て?」


あたしの口から漏れたのは、蚊の鳴くような細い声で。


「もう一度?」


耳を近づけてきた煌に、再度あたしは言った。


「お願いだから…鬘とって?」


煌の顔は怪訝に歪まれ、首を傾げながらも、鬘をとってくれた。


鬘は上着のポケットにしまわれる。


そして現われる、鮮やかな橙色。


「――行くよ、煌!!!」


あたしは、煌の手を引いてすたすた歩き始めた。



「――!!?

芹霞、おい芹霞!!?」




何でだ。


何でなんだ。



見慣れない黒ワンコに、真っ直ぐに"男"見せられたら…


どうしてあたしは動けなくなるんだ!!!

どうしてかわせないんだ!!!

どうして心臓がばくばく言うんだ!!!


オレンジがいい。

見慣れた大好きな色がいい。


あたしは心で叫んだ。


ああ、一体あたしは何をやっているんだ!!!


櫂達を助けに来たんでしょう!!!


櫂、今…煌と助けに行くからね!!!

皆で無事でいてね!!!