「意味くらい判れよ、阿呆タレ。ああ本当にもう」
そして苛立たしげに。
同時に妖しいくらいに瞳を揺らしてくるから。
お願いだから――
「何度言えば判るんだよ?
俺はお前が好きなんだ。
こっち向かせたくて仕方が無いんだ」
その顔で――
迸(ほとばし)るような色気出して――
「俺の願いなんて決まっているだろ!!!
――俺は!!!
お前が欲しい、それだけだ!!」
そんなことを言わないで。
「……???」
煌の手が、突如あたしの頬から離れた。
「"絶交"って、拒まねえ?
で、真っ赤っか?」
ばれるなばれるな。
「……」
ふうっとあたしの耳に息を吹き掛けてくる。
「!! ンやっ!!」
身を捩って声を上げれば。
煌は複雑そうに何か考え込んでいて。
「どうして手が出てこないんだ?
何で突然? 俺、喜ぶべき?」
何やらぶつぶつ呟いていて。
「だけど…ぬか喜びっていうの、学習したし…」
「は、早く行こうよ、煌!!」
煌の服を引っ張って歩き出そうとした時、木の枝に煌の鬘がひっかかって落ちた。
中から現われる鮮やかな橙色に。
突如あたしの心は、"安心"に包まれた。
「てももしかしたら…。
…もしかして…ちょっとは意識始めた?」
後ろから抱きついてきた、オレンジワンコに。
「――盛るな、発情犬!!!」
肘撃ちを喰らわせた。
「は!!?」
煌は訳が判らないという顔をして深く考え込みながら、落ちた鬘を被り直し。
「あ、まあ…今は確かに救出だ。ほらいくぞ」
手を差し伸べてきた。
真っ黒な頭に、煌の精悍な顔。
「手…繋ぐの?」
「その方がすぐ守れる。担いでもいいけど?」
何か…煌の手を取れなくて。
「警戒するな、何もしねえから(今は)!!」
最後に何か、心の声も聞こえてきたけれど。
それでもあたしはその手を取れなくて。
恥ずかしい、んだ。