私のポケットの中の小瓶。


この中身を飲ませれば、玲様の錯乱は止まるだろう。


今の状況、これが必要だと判っている。


だけど、飲むことによって中毒となる。


薬を飲まねば、更に次回、深くて強い幻覚症状が訪れる。

――私のように。


血を吐くようなリアルな幻覚に恐怖し涙し、絶叫する。

感情が判らない私でさえ、戦き震え、藻掻き続ける…強烈な幻覚。

私でさえ、耐えきれなくて…薬に手を出すくらいだ。


薬を抜くのは早い段階が望ましいと、緋狭様から教えられているけれど、抜くタイミングをも失い…結局ずるずると、私は薬を飲み続ける羽目となっている。


修行時、緋狭様から密やかに手渡される小瓶は、私の納得の元で受け取っている。飲む時間の間隔は、確実に当初より短くなっていた。


今の私は、薬が無ければ…普通の精神状態を保持出来ぬ程の中毒者になっているのだろう。


今この状況で。


緋狭様と会うことが出来ない私は、この1つしか手元になく。


私の薬も、時間的に…もう少しで切れるだろう。


このことは誰も知らない。


焦げ蜜柑は"約束の地(カナン)"にて、私の発作時に居合わせたが、馬鹿故か…事態をよく把握していない。


…この薬で、少なくとも玲様の"錯乱"は抑えられるだろう。


だけど。


例え私が狂死しても、玲様を助けられるのなら、私は喜んでこの小瓶を差し出すけれど、その為に心臓の弱い玲様にかかる負担と…更なる発狂の恐怖を玲様に与えたくなくて。


玲様の繊細なお心が、薬によって…まるで硝子が割れるように砕け飛んでしまったらと…そればかりを私は懼(おそ)れるのだ。


だから――。

いつでもこれは玲様に飲ますことが出来ると、最後の切り札だと…とにかく私は、これを使わなくてもいい…もっと建設的な治療方法を求めた。


ごめんなさい、玲様。

薬を使わなくてもいい方法を見つけますから。

だから頑張って下さい!!!


とにかく、体力を消耗仕切る玲様を休ませたい。

私達の1番の願いは、まずそれだった。