「申し訳ございません、櫂様。櫂様も行きたかったのでしょうに、勝手な真似を…」


そして桜は、ポケットから何かの錠剤を取り出した。


「ニトロです。万が一の為に、桜も携帯していましたので」


そして発狂したように、もがき続ける玲の口にそれを入れて、飲み込ませる。


「これで心臓は一時的に落ち着くでしょうが、あくまでこれは応急処置。根本的な治療を施すか、或いは回復結界の中で玲様を安静にせねば、症状は落ち着くことは無い気がします」


桜はそう口早に言って、携帯を取り出した。


「救急車を呼びます。呼んで…紫堂系列の…そうですね、此処からなら五反田の病院が近いでしょうか。そちらに玲様を!!!」


玲の端麗な顔は、"恐怖"に歪められて。


俺の腕を強く掴んで、縋り付いてくる。


こんな玲を見たのは初めてだ。


何をそこまで怖がっている?


ああ俺は。


どうして玲がこんなになるまで、放っておいた?


玲。


もう少しだ。


我慢してくれ。