櫂Side
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「くそっ!!! 電話が繋がらない!!!」


談話室より走り去った芹霞を追いかけた俺達は、完全芹霞を見失った。


俺達を取り囲み高見の見物をしていた奴らが予想以上に多くて、行く手を阻まれ…声を上げても芹霞は振り返らなかった。


芹霞が危険な状況だから、というのは確かにあるけれど。


明らかに玲のことだけを思い悩んでいた芹霞が、まるで俺の元から飛びたつ暗示のように思えて、何が何でも芹霞を引き戻したくて仕方が無かった。


玲は…落ち込む芹霞の様子に気づいているのに、片時も俺の傍から離れず。


いつでも、異常な程の神経を尖らせていた。


煌や桜にも託せない、何かを警戒している。


それならそれでもいい。


だけどそれは芹霞を避ける理由にはならない。


芹霞の護衛に、蝶の姿が見える玲の存在は必要だと判っていながら、俺の護衛を優先させるその意味は何だ?


芹霞を煽る…駆け引きのようなものかとも思ったけれど、時折見せる玲の表情は痛ましく…何かを企てているような、確信犯的な色はなかった。


玲がこの談話室で、窓を見ている理由。


俺が気付かないはずはない。


それは俺の警護の意味合いではなく…窓に映る芹霞の姿を見ていたんだ。


恋しそうに――

切なそうに――


それは少し前までの…芹霞を手に入れたいと"自己主張"していた玲と、同一だとは信じられないくらいの消極的な態度で。


芹霞だけに、初対面時のような"気味悪い微笑"を見せるのは、裏を返せば、芹霞だけに決して見てもらいたくない"心の内"があるということで。


そうせざるを得ない"何か"があるということで。


線を引いた玲に、芹霞は嘆き悲しんだ。


元より、もっと玲と距離を詰めたいと切望している芹霞だから、今の状況がどんなに心痛なのかは判るつもりだ。


だけど、俺の心だって悲鳴を上げている。