桜Side
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私は今まで、学校というものに行ったことはない。


どうして、理由もないのに数多の人間と関わらねばならぬのか、その意味合いと必要性がよく判らない。


私的な交流など、私が許容できる限られた人間だけでいい。


何の為に見知らぬ人間と顔を突き合わせ、無駄話をしないといけないのか。


だから本当は、自己開示のような紹介などしたくはなかった。


「神崎芹霞です」


思っていた以上に、芹霞さんは男性陣に注目された。


遠坂由香は愛嬌はあるが、芹霞さんと系統が違うから。


教室は奇妙な静寂さを保ったまま、舐めるような…好奇な目線が芹霞さんに向けられている。


此の場に…芹霞さんの願い通り玲様がいらしたら、その目線は分散されたのだろうけれど、今、男子生徒の興味は芹霞さんだけに注がれて、芹霞さんの全てを…視姦しているような汚らわしさを感じて、私は思わず芹霞さんの手を引いて私の後ろに立たせた。


芹霞さんを無性に隠したかった。


「桜ちゃ…桜くん?」


しまった。


何を私は強引に。



「…葉山です。よろしく」



動揺を隠すように、短い挨拶をして…そして男達を睨みつけた。


男達はびくんと怯んだ反応を示したから、視線で押さえつけながら後方に退いた。


そして…目だけを動かす。


また――


視線を感じる。



生徒達の好奇なる視線ではなく、明らかに別物だ。


櫂様方と廊下を歩いていた時から、こちらの動向を見張るような…執拗な視線を感じていた。


それに私が気付いた時にはもう、玲様は目を光らせて櫂様の隣についていた。