「取り締まるからには、不平等さがあってはいけないと、世間から支持されているボランティアの第三者機関に依頼したんです。

ご存知ですか、"自警団"。彼らはイマドキの若者達からは敵視されていますが、教育者にとっては、自らの手を煩わせることなく、短期間で更正させてくれる上…対外的にもよい印象を与えてくれるという有難い組織です」


「自警団…」


煌は芹霞と、引き攣った顔を見合わせた。


「どうした?」


「ん…いや。だから、煌が黒髪の必要があったのかなって。玲くんの髪の色も…茶色だから。でも玲くんは染めてないんでしょ?」


「うん」


玲は一言で芹霞の問いを終わらせて、顔をそむけるように…周囲の気配ばかり、やけに警戒していた。


「櫂…あたし、玲くん怒らせたのかな」


芹霞が俺の腕を引いて、ぼそりと言った。


「あたし我侭ばかりだから…。思い当たることが多すぎて。嫌われちゃったのかな」


泣きそうな顔。


気にしすぎだと、俺は芹霞の頭を撫でたけれど。


――嫌われちゃったのかな


そんなことはありえない。


今だって。


俺が芹霞を触れる度、突き刺すような玲の視線は感じているから。


諦めたとかそういう類ではないだろう。


では何だ?


そんな時、先頭を歩く学園長が足を止めた。


「向こうの校舎が高等部。担任を待たせてますから、後は彼らの指示に従ってください。あくまで桜華の雰囲気を味わって貰うのが主ですので、気を楽に。教科書や体操着等は…机やロッカーに入っています。名前が書いてありますんで、どうぞ」



クラス割は、予(あらかじ)めの予想はついていたということか。


――あはははは~。


氷皇――。



「それと玲さん…」


学園長は指先を動かして玲を呼ぶと、何やら紙切れを手に掴ませた。


「待っていますよ、ぐへっ」


下卑た笑いに、玲の表情が冷たくなっていく。


「口説かれたのか?」


学園長が去り、佇む玲に、煌が口元の片端を吊り上げて肩を叩く。


「僕は…男だ!!」


ぐしゃり。


玲は紙を握り潰した。