その時玲が、僅かに目を細めて。
そして徐(おもむろ)に眼鏡を外して、ふわりと微笑する。
ああ、芹霞の血を奪う、色気の大放出。
勿論、何処をどう見ても好色そうなイボガエルはでろんでろんで。
玲はそんなイボガエルに歩み寄り、
「背広のボタンが…外れてますわ? お直ししますね」
外れてねえボタンを瞬時に外して言うからには、玲に何か魂胆があるんだろう。
そして――
「ふふふ、面白いバッチをつけているんですね?
蛇のお腹に…太陽マーク?」
瞬間。
場が張り詰めた。
それは。
俺が拾ったバッチじゃねえか?
「私も欲しいですわ、どちらでお買いに?」
「いいや、これは友達からの貰い物で…」
「どちらからかしら?」
普通。
こんなに聞いてくる奴がいたら、絶対おかしいって警戒するものなんだろうけれど
でろでろイボガエルはそこまで頭が働いていないらしい。
それだけ玲が美女だってこともあるんだろうけど。
「俊樹…上岐俊樹」
"カミキ"
玲は呟いて、目を細めた。
「上岐物産社長の?」
「知っているのか。ええと君は紫堂の坊ちゃんとどういう関係で…婚約者とか何か?」
一体何を妄想して、どんな希望を抱いたのか。
イボガエルを完全無視して、櫂と顔をあわせた玲。
その時、チャイムが鳴って。
「さあ、予鈴だ。
教室に行く時間だ」
氷皇は嘲るように笑った。

