僕はのろのろと、芹霞のベッドに腰掛けた。


手中の宝石箱。


投げ捨ててしまおうか。


元より僕は、芹霞に取りに戻るなんて伝えてなかったし。


――アレ取られたら…生きていけない。


叩き付けようとして…思いとどまった。


そんなことをしても、虚しいだけだ。


芹霞のベッドに、仰向けになって転がった。


今まで、櫂に遠慮して、意識的に芹霞の部屋に入ったことはなく。

ましてやベッドに触れたことすらなく。


僕にとって神聖だった領域で、僕は一筋…涙を零した。


芹霞の匂いが残るこの部屋で。

芹霞しか感じられないこの部屋で。


その芹霞が大切にしているものの中に入れない僕は、輪郭がもてない僕は…、芹霞の枕を両手に抱いてキスをした。


思い切り抱きしめた。


判って?

ねえ、僕の想いを判って?


「渡したくないよ、誰にも」


枕に顔を埋めて、芹霞の亡霊の温もりを追い求める。


「僕だけの…ものなんだ」


苦しくて苦しくて堪らない。



――オイデ。



好きで好きで堪らない。



――コチラニオイデ。



欲しくて欲しくて溜まらない。



――カワイイレイ。



僕はぎゅっと目を瞑り、その声を振り切った。



その時の僕は、衝動に手一杯で。


ただ芹霞だけしか考えられなくて。


だから――


聞こえなかったんだ。


気付かなかったんだ。


階段を上がる足音に。