過去、僕は芹霞を守れなかった。
そんな自分を変えたいと思っていたけれど、現実は何も変わっていなかったと言うこと?
それは…僕の力?
それとも僕の恋?
じゃあ誰なら、芹霞を守れるって言うんだ?
櫂だって煌だって。
蝶を見ることすら出来なかったじゃないか。
"僕"が主張する。
僕が。
僕が。
僕が。
櫂を押しのけてでも、僕を見て貰いたい。
2人の世界に浸りたい。
ああ、喉が渇く。
――お前では無理だ。
悔しさに唇噛みしめて、気付けば神崎家。
ひっそりとしており、特に異常はないようだ。
開けられた壁の穴は、きちんとしたプロの技術でもって、完全に修復されていた。
これなら夜盗の心配はない。
「だけど…芹霞…怒るだろうな」
夜目でも判る。
この壁の色は…神崎家の白色ではない。
超短時間で仕事をこなした修繕者は、己が色を残したようだ。
本人によるものか、指示された第三者によるものかは判らないけれど。
由香ちゃんが抱いている袋から、神崎家の鍵を抜き取っていたから、難なく僕はその家に入った。
何事もなかったかのように、片付けられている居間。
僕は2階に上がった。
芹霞の部屋に入る。
ドアを開けた瞬間、芹霞の匂いがしたようで、僕の鼓動が早まった。
此処に彼女が、本人が居ないことが、溜まらなく切なくて。

