玲Side
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王者たる堂々とした物腰で、エントランスから櫂はホテルに入っていく。


彼がこのホテルのオーナーの御曹司であると気付いた者も、気付かぬ者も、一同…颯爽と現れた櫂の姿に圧倒され魅入られ、惚けた顔つきになっていく。


櫂のカリスマ的な空気は、厳かでありながらいつも攻撃的で、同じ血を引く僕には持ち得ないものだ。


薄暗い照明の下、セピアトーンに統一された落ち着いた調度品の横を、いつも通りぴんと背筋を正した姿勢のまま、闊歩する櫂。


彼の歩いた軌跡は、強烈な色彩を放って輝きだす。


まさしく。太陽の光を浴びながら人の上に立ち、従わせる側の人間だ。


8年前。


次期当主を、僕から櫂に任命し直した当主の判断は、間違っていない。


当主とて、あの櫂がここまで化けるとは思っていなかったろう。


嬉しい誤算であるはずなのに、いつでも櫂に対する態度は厳しいらしい。


櫂が本家を出て僕達と暮らすようになってから、僕は当主と顔を合わせていない。彼の、用無しのものを見る蔑視に耐えられなかったし、何より僕は櫂に人生を捧げたのであって、それは父親たる当主にではない。


櫂も、父親だの元老院だの…外部的勢力に随分苦心していると思う。


少しでもその苦労を取り除いて上げたいけれど、裏方に徹する僕にも、出来ることは限られていて。


それがもどかしい。


それでもまだ、僕の名前に反応する輩が居るのは確かなことで、僕はまだ名乗ることを許されている"紫堂"の名の持つ権力に、感嘆せざるをえない。


櫂が受付に顔を見せると、支配人が顔色を変えて走ってきた。


仕事上、何度も顔を合わせたことがある初老の男は、


「これは櫂様。お泊まりでしょうか」


青い男はそこまでの手配はしていなかったらしい。


「ああ、男4人、女2人。暫し滞在したい」


「かしこまりました」


そして。


「あ…櫂様。お届け物がございます」


それは青い紙袋で。


それだけで、差出人が誰か判ってしまう。