「し、紫茉ちゃん…」


芹霞さんが手を伸ばして車を追いかけようとするが、それは敵わず。


「櫂、何で~!!?」


しかし櫂様は何も語らず。


その目を煌に向けた。


「煌、お前が見た"白衣の男"は朱貴だったか?」


褐色の瞳は、僅かに細められて。


「ああ。あいつだ。間違いねえ」


そして。


「お前…芹霞の家で制裁者(アリス)と闘った時、何を拾った?」


煌は、満足気に笑って、ポケットから出した何かを指で弾いた。

それは宙に弧を描き、櫂様が手を伸ばしてそれを掴んだ。


櫂様の手にあったのは小さなバッチ。


「……蛇の腹の九曜紋、確かに俺が親父の部屋で見たのと同じもの」


「どういうことだ?」


玲様が目を細め、鋭さを強めた。


「あの制裁者(アリス)は意図的に差し向けられたもの。それを示唆したんだ、あの朱貴という男は」


「え?」


「これは…朱貴がわざと、拾わせる為に落としたもの。そして制裁者(アリス)を向けたのは、皇城じゃない。それならむしろ…」


そして櫂様を頭を振った。


「いや…考え過ぎだな。朱貴は確かに何かを知っている。だが…あいつもまた…監視されている」


「監視!!?」


玲様が声を上げた。


「ああ…それは多分…その車の主に関係する」


櫂様が促したのは、玲様の真後ろにある路上駐車場で。


そこには。


「ボンドカー…」


芹霞さんが呟いた。


「朱貴が"あいつ"とどんな関係があるのかは知らないが、この場所に出したということは意味があるのだろう」


改めて周囲をよく見れば。


ロイヤルホテル。


ここは…日比谷だ。



「行くぞ」



櫂様は不敵に笑い、歩き出した。