そんな私の心を知らずして、無遠慮な大声が響き渡る。


「これが本当の瞬間移動って感じだよな。何十cmの移動レベルじゃねえよな」

「何だよ、その何か言いたげな目!!!」


相手にしているのは皇城翠なのだが、その目はちらりと芹霞さんに送られた。


勿論芹霞さんはそれに気づかず、櫂様と話しているようで。


羨ましそうに、忌まわしそうに…煌はそして唇を噛んだ。


仲直りしたいのに出来ないから、必要以上に大きな声を出して注意を向けようとしているらしいが、空回りだったようだ。


芹霞さんと櫂様の様子は、何やら深刻そうで…確かに他を寄せ付けない空気はあって。


玲様も、遠坂由香と話しながら、ちらちらと視線を向けて気にしているのは判る。


何を話し込んでいるのか。


誰もが気になるけれど、誰もが近寄れない。



「あ~~ッッッ!!!」


突然煌が仰け反るようにして喚き、頭をがしがし掻いた。


「突然なんだよ、馬鹿ワンコ!!!

びっくりするじゃないかよ!!!」


その声はよく透る分、更に大きく響き渡り、芹霞さんがこちらを向いた。


そんな時、七瀬紫茉がすっと皇城翠の背後に歩み寄り、


「翠、うるさいッッ!!」


拳骨を落とした。


彼女は、あのコート男の前ではがたがた震えるのに、皇城翠の前だと至ってクールだ。


そのクールな彼女が今度は…


「お前も落ち着け、煌」


何と――

煌の手を握った。


指を絡めさせて。



その場に居た人間全てが目を見開いて驚愕したが、一番驚いたのは煌だったようで。