皇城翠は、分岐点に差し掛かっても迷うことなく先頭を歩く。


何でも大げさに喜怒哀楽を表現するくせにこの落ち着きぶりは…恐らくこの"地"を歩くのは、初めてではないのだろう。


七瀬紫茉も驚愕こそしないものの、それでも不安げな色を顔に浮かべている。


その違いは、経験というよりも…朱貴と呼んだ男への信頼感に依存していそうだ。


しかし。


同じ処をぐるぐる回っているような、代わり映えしない景色。


本当に道はあっているのだろうか。


出口はあるのだろうか。


一抹の予感が胸に沸き起こるが、


「脱線するなよ。少しでも道間違えると、此処に閉じ込められるから」


至って平然と皇城翠は言った。


この地が何処までの広がりを見せているのかは判らないけれど、時折見る石碑には、"開"だの"傷"だの"驚"だの…見る度に石に刻まれている字が違うことから、間違いなく同じ道を彷徨しているわけではなく、"八門"と呼ばれるものを確実に巡っているのだろう。


「あたしの家…ああ、あたしの家」


芹霞さんは落ち込みながら歩いていて、隣の櫂様が諭しているようだ。


玲様は、遠坂由香がサンタクロースのように背負っている銀色の袋を共に覗き込んで、中から通帳だの証券だの、果てはPCまで取り出し確認している。


銀色の袋には『緊急時持ち出し用四次元ポケット袋 ※ただし金庫は不可』。


名前の意味は判らないが、あの袋には…何でも入っているのだろう。



「すっげえな、おい。ついさっきまで家に居たのによ。どう見ても触っても、此処本物の洞窟じゃねえか」



先刻から、私の視界の中をちょこちょこ動き回る橙色。


警戒心なくただ純粋に。好奇心にきらきらさせている褐色の瞳を見ていると、自然に拳になった手がぷるぷる震え始める。


この男…櫂様の護衛だという自覚がない。


それともまた、芹霞さんの隣から離れない櫂様に妬いているのか。


無視される芹霞さんと話しづらい為、こうして気を紛らわせているのか。


どちらにしろ、何が出てくるか判らない未知なる土地にて、護衛役が主以外に余所見してどうするんだ!!!


私のイライラは募る。