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「答える義務はありませんよ、翠くん」


突如割り込んできた男の声。


廊下へと続く、居間の入り口から現れたのは、濃灰(ダークグレイ)に光沢を放つロングコートを着た長身の男。


ゆるやかなウェーブかかった煉瓦色の髪。

コートと同色の瞳。


まるでモデルのような、華やかさ。


玲くんのような中性的な顔立ちだけれど、玲くんのような瑞々しさはない分、そしてその秀麗な顔に覆われている翳りが、アダルトな…大人の男の色気を醸し出している。


奇しくも、あたしの周りの男達は、尋常を超えた美形揃い。


別に今更、新たな美形が1人現れた処で、興奮してキャーキャー騒ぐことはないけれど、それでも…美形慣れしているからこそ感じる彼の"違和感"。


美形には間違いない。


だけど。


どことなく歪で、不自然さを感じた。


一体何だというのだろう?


あたしは、まじまじと彼を見つめた。


そんなあたしを忌々しげに見つめる、3組の眼差しがあることに気付かずに。


――ん?


この人の顔何処かで…。


「たたたタマタマ…」


突然紫茉ちゃんが、飛び上がって震えだして。


まるで螺子(ねじ)が切れたゼンマイ人形のよう。


「紫茉…。


僕は――…


猫じゃないと…何度言わせるんですか!!!」


紫茉ちゃんの頭に、大きい拳骨を見舞った相手。


女の子に容赦ない攻撃に、あたしの記憶は刺激され…



「ああ!!!

109で会った、白衣の保健医!!!」



あたしは柏をぽんと1つ打った。