玲を見れば、玲は心得たばかりに浅く頷き…既に用意していた携帯に耳をあてて、電話をかけ出した。


――紫堂を名乗る人間ばかりお見舞いに来たから。


VIPだから、院長らが紫堂を名乗って見舞ったのか?


しかし院長は、医界においては紫堂の傘下だが、ただそれだけのこと。


名乗れる程深く、紫堂に食い込んでいるわけではない。


紫堂を名乗る権限は、一切与えていない。


自らを紫堂の者と名乗れるのは、紫堂の中枢に近くなければ基本許されない。


更に血族でもなければ、警護団長の桜でさえ公言は慎んでいる程だ。


だとしたら――

名乗れるほどの人物が、御前と雄黄の見舞いに訪れていたということ。


そして多分それは――


「櫂、予想通り。

病院の重篤VIPには、紫堂当主が出入りしていた形跡がある。

ふふふ、事務局長までも箝口令が敷かれていたらしいよ?」


薄く笑いながら、玲が携帯を閉じて言った。


「…やはり、親父と皇城には接触があったのか」


何を企んだ、あの親父は。


自ら動くなど七面倒くさいこと、紫堂の…自分の利にならねば動かない。


俺ではなく、親父が動くことにどんな意義がある?


そして今、姿を眩ます理由は何だ?


答えが思い浮かばない。


俺は何1つ親父を理解することが出来ないから、予想すら出来なくて。


思わず――

嗤いが込み上げてくる。


判ることが出来なくても、まるで哀しくならない自分に対して。


「ねえ、…お腹に九曜紋が彫り込まれた蛇の石像に心当たりはない?」


不意に、玲が翠に訊いた。


「九曜紋って…皇城の家紋の?」


「そう。その家紋が彫られた蛇。何か思い当たることある?」


翠は腕組みをして、少し考える素振りを見せると、



「あのさ――…」



そう――


口を開きかけた時だった。


「答える義務はありませんよ、翠くん」



強い語気の、男の声がしたのは。