櫂Side
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何とも――

気が抜ける結果。


しかし。


俺の知る限りにおいて、式神の力は制御する術者の全潜在能力に等しい。


式神を7体出せるということは、皇城翠という少年の潜在能力は、俺が彼個人に感じる"力"の7倍は優にあるということで、そして彼を含めて1体1体の気を尚も高められるのだとしたら、更に大きな力を秘めているということになる。


彼が安定した力を持つ符呪使いになれば、俺とて無傷でいられなかっただろう。


彼が"脅威"となり得る器の持ち主だということは、恐らく本人は判っていないに違いない。


きっと彼に足りないのは、"実践経験"なのだろう。


それよりも先に、あの幾つかの"超能力"に満足してしまったフシがあるから、そこから先に進むだけの根気と精神力に至らないのだ。


皇城というのは、"符呪術"に対し生まれながらに"英才教育"される実践的な組織のはずなのに、仮にも皇城を名字として名乗る者が、何故こんな素人同然の反応を見せているのか俺にはよく判らない。


そして更に判らないのは、俺にずっと向けられている憎々しげな視線。


「なあ…どうしてお前、櫂を…紫堂を恨んでいるんだよ」


煌が聞いてもだんまり。


その隣で七瀬紫茉が困った顔をしている。


「翠。昨日だって、渋谷で紫堂櫂は助けてくれたじゃないか。芹霞を助けようと身体で庇った。あたしには残虐非道な男には見えないぞ?」


残虐非道?


「そんなの油断させるための演技かも知れないじゃないか!!! 兄上だけに飽きたらず、弟の俺まで"残虐非道"に変えようっていう魂胆かもしれないだろ!!?」


兄上…?


「なあ紫堂櫂。翠の兄…皇城雄黄(ユウキ)に何かしたか?」


七瀬の目はまっすぐに、俺に向いた。


澱みない、透き通るような目を。