「君はきっと疲れすぎて、妄想に取り憑かれている。少し休養をとるといいよ。人殺し云々は、僕は聞いてないことにするから。
話はそれだけかい?」
「取り憑かれているのは、妄想じゃないんです!!!」
上岐妙は、必死な声を出して。
「私が取り憑かれているのは…
イチルの…黄幡一縷の幽霊なんです!!!
彼女に取り憑かれて…私は…人を殺しているんです!!!」
あたしは――
口を開けたまま紫茉ちゃんと顔を見合わせて。
紫茉ちゃんも同じような顔つきで。
「イチルって…七不思議の? じゃあ何? 君が桜華の猟奇殺人の犯人だって言うの?」
「はい。夢を見て…生々しく、桜華の女生徒の首を絞める夢を。最初は…手に感覚が残るリアルな夢を見たと思ってました。
だけど、パジャマで寝たはずなのに、目覚めればいつのまにか制服に着替えていて、汚れが…泥がついて…明らかに外出した形跡があって!!!
そして…必ず次の日には、夢で私が殺した子達は屍体で発見される。犯人でなければ…どうして、犠牲者の顔がはっきり判るんですか!!?」
今――
喫茶店に、煩いおばちゃん集団が入ってきてよかったと思う。
彼女の告白は、騒音にかき消される。
「一縷の憎悪が…心が流れ込んでくるんです。
葬式で…誰も気付いて貰えず、自分が死んで幽霊になったと判った時点で、自分を殺した犯人の名を叫んで、怒り狂っている。
だけど…それが誰の名前なのか私には判らない。
嘘じゃありません、私…殺された一縷に身体を乗っ取られて、夜…人を殺しているんです」
そして彼女は泣き出して。
「凄く…怖いんです。今度は誰を殺してしまうのか。助けて下さい、ねえ…玲さんは"王子様"なんです。私の、困窮した境遇から、救ってくれる"王子様"なんです」
玲くんの右手を掴んで、訴えて。
玲くんはどうするんだろうと、ちらりと彼の顔をみたら。
鳶色の瞳が向いていたのは、あたしの方で。
な、何であたし!!?
「僕に助けを求める理由が"王子様"であるというのなら、僕は君を助ける義理はないね。可哀相だけど、本当の"王子様"を見つけて、頼ってよ。
僕にはもう――
決まった"お姫様"がいるから」

