「…榊さん知ってました?」


「由香がネットを見てそんなことを言っていた気が…。夢見るオトメの都市伝説って大爆笑してましたね」


由香ちゃんは本当に情報持ちだ。


ネット情報とすれば、玲くんも知っているのかな。


「表向きそうだが…その蝶を見た少女達は、13日以内に姿をくらます。所謂…神隠し。消えた先は"夢の国"か」


嘲るように笑う様子を見れば、紫茉ちゃんは疑っているのだろう。


「本当に居なくなるのなら、どうして大事件にならないの!!?」


「それが…家族がひた隠しにするらしい。だが情報は必ず漏れるものだからな…」


「何でだろうね」


「さあ…さっぱりだ」


紫茉ちゃんは肩を竦めた。


「本当にこの世はおかしなことが罷(まか)り通る。これからこの世界は、どうなってしまうんだ…?」


確かに。


あたしだって"生ける屍"に、何度も遭遇しているし。


第一、あたしの周囲の男達は、皆普通じゃないし。


「普通って…なんだろうね?」



そんな時だ。


「!!!」


突然紫茉ちゃんがびくんと反応して、突如…みるみる間に顔が青ざめた。


どちらかと言えばクールな雰囲気の彼女が、此処まで表情を崩すのは驚きで。



「せ、芹霞、悪い!!! 買い物は次にして貰っていいか!!?」


「え!!?」


「折角…ようやく撒けたと思っていた、苦手この上なく厄介な奴がいるんだよ、この上に!!!

ああ、何であいつはあんなに不機嫌そうなくわえタバコで、仁王立ちしてこっち睨みつけてんだ? ああいうガラ悪い男こそ、自警団は取り締まれよ!!!

帰る。悪いけどあたし…帰らせて貰う!!!」


そして紫茉ちゃんが、昇りのエスカレータを駆け下りようとした時、



「随分とお急ぎですね、紫茉」


にっこりと。


それはもう美しすぎる笑みを見せた白衣の男が、ゆっくりとやってきて。


紫茉ちゃんの襟首掴むと、悠然と上ってきた。