「君にとって…僕は"元カレ"? 

それとも――…

そこまでにもなっていない?」


「玲くん?」


「ねえ芹霞。君は…

もう僕には興味失っちゃった?」


胸を締め付けられるような、哀しい顔で。


「嬉しかったんだよ? 

僕と"お出かけ"しようと勉強頑張ってくれてたの…凄く…嬉しかったんだ」


あたしは玲くんの腕を掴んだまま、動くことができなくて。


硝子のように透き通る、鳶色の瞳に魅入ってしまう。


「どうして、もう…僕のことを考えてくれないの?

まだ始まってもいないのに…


終わらせないで?

僕を忘れないで?


僕にとっては…

まだ続いているんだよ?


何も…

終わっちゃいないのに」


それは…"お試し"のことを言っているのだろうか。


「ねえ僕は――

君の中では、すぐ消え去る存在なの?

君の中で、強く…長く留まっていられないの?」


それは泣いているような、掠れた声で。


「僕との"お出かけ"は…"お試し"は…

1日だけのそのチャンスさえ、僕には許されないの?」


さらりと鳶色の髪を零して、あたしの顔を覗き込む。


だからあたしは――


「玲くん…あたしと"お出かけ"してくれるの?」

そう聞いたら、玲くんは少し驚いた顔をした。


「玲くん…全然"お出かけ"を実行してくれないから、反故にされるのかと思ってた」


「そんなわけないじゃないか!! 大体君がZodiacに夢中になってたから!!」


それは怖いくらい酷く真剣で。


Zodiac。


ああ、確かに。


寝ても覚めても騒いでいたあの時なら、玲くんだって"お出かけ"の話を持ちかけられなかったろう。


理由が判れば、何だか胸のもやもやが晴れた気がした。


距離を作られてたわけではなかったのか。


「安心した~。玲くん、まだ"お出かけ"覚えてくれていたんだね。玲くんに、玲くんが日にち取り決めると宣言された以上、あたしから急かせられないし。

なかったものにされるのなら、玲くんと仲良くなる為に、別の方法を探さなきゃと思ってたんだ」


鳶色の瞳は、あたしの中の何かを走査するように揺れていて。


疑いというより、驚愕の色合いが強い。