「1週間前はこうではなかったのに…」


「自警団…」


紫茉ちゃんが目を細めて小声で呟いた。


「え?」


「渋谷にも…いるのか。自警団。聞いたこと無いか?」


あたしは頭を横に振る。


「最近の少年少女の風紀があまりに乱れすぎているからと、"自警団"と称した若者が、そうした対象たる場所を巡回している。ほら…あっちから白い制服の男女が歩いてくるだろ?」


紫茉ちゃんに促された2人の若者の腕には、"自警団"と書かれた判りやすい腕章。


「白いセーラーに学ラン…。見たこと無いけど…何処の学校の制服?」


「学校ではない。然るべき筋からの…とある新設集団において選ばれた若者達だ。選別基準はよく判らない。あの制服と腕章で、ある程度の権限が与えられて、多少の荒事も罷(まか)り通る」


あたしの目の前で――

ケバ過ぎる化粧と沢山のアクセサリー、やたら短いスカートを着た…制服姿の女の子2人が、その自警団に捕まり…髪を思い切り後ろに引っ張られるように物陰から引きずり出され、ヤクザのような怒声を上げていた。


周りに人はいるのに、関知せず。


更には、当然とでもいうべき"模範生"の侮蔑の眼差しまで送られていて。


髪をひっぱるという所業について、そんな権利を認められていると思い込んでいる時点で、あたしの沸点は上昇する。


昇りかけていたエスカレータを駆け下りて、自警団の手を掴む。


「年相応の格好でないかもしれないけれど、暴力はいけない!!!」


そう口にしてあたしは…目を細めた。


自警団。


なんて虚ろな顔をしているのか。


そこに意思があるのだろうか。


まるで能面。