煌が桜と戻ってきた時、僕の携帯が鳴って。


着信画面を見ると、東池袋の病院からだった。


「珍しいな、電話がかかるなんて。僕は、芹霞以外の医者はやらないから、電話など必要ないのに」


「そういえばさ、一時期お前の電話酷かったよな。秒刻みで鳴りまくって」


煌が思い出して、そう笑った。


「うん…。緊急時以外の用事ばかりだったから、ちょっと頭にきて、院長に可愛い圧を加えたんだ。それ以来ぴたりと止まったよ。やっぱり早く叶えたい"お願い"はトップダウンに限るね。ふふふ」


「玲…台詞の節々に矛盾あるし、まずそのえげつねえ笑顔やめろ。…お前、やっぱ拷問向きだよな」


煌が引き攣った顔を向けてくる。


「ねえ玲くん。緊急時以外の用事って、どんなもの?」


芹霞が興味津々と聞いてくれば、由香ちゃんが呆れたように溜息をついた。


「神崎~。師匠はモテモテなんだぞ? モテモテは君の幼馴染だけだとでも思っていたのかい?」


「いやあ、玲くんは王子様だから、モテるの十分判るけど。

…へえ、天使の看護師さん、緊急用を私用に使うんだ。だけどさ、あそこの看護師さんってかなり美人さんばっかりだったのに…勿体ないね。あんな美人さんでも駄目なんて、玲くんの好みってレベルが高すぎ……何、何で皆そんなジトッとした目であたしを見るの? 何でそんな溜息つくの? あたし何か変なこと言ってる!?」


切ないな。


僕は…ずっと芹霞だけを想っているのに。


まだ着信は鳴り止まず、仕方がなく僕は電話に出てみた。


芹霞に返答したくなかったからもあるけれど。


『紫堂先生、申し訳ありません』


事務局長の男性からだった。


「どうしたの? 珍しいね、事務からなんて」


『いやそれが…。先生は、上岐妙(カミキタエ)っていう女性をご存知ですか?』


「上岐妙? 知らないね、その人がどうしたの?」


『どうしても先生に会いたいと…先生の自宅を知ってるらしく勝手に赴いたらしいんですが、見つけられなかったと。何でも彼女の父親が、上岐物産の社長らしくて、院長経由で私の処に連絡が来ましてね。先生の連絡先を教えて引き合わせろと。電話番号は事務局で判りますが、勝手に知らせるのは忍びなく、一応…先生にお伺いをと…』


つまり面倒ごとを、事務局長に押し付けたのか、院長。