櫂Side
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「家には、遠坂がいるんじゃないのか? それに…お前のメインコンピュータは燃えてしまったのか?」


俺の問いに、玲はハンドルを切りながら答えた。


「サーバー室は最高度の耐熱仕様で、そこからの非常口もある。偶然彼女は中に居たから助かったみたいだ。

メインコンピュータの全データを、別場所にあるバックアップ用サーバーに完全移行と現コンピュータの全記録抹消させてから、何とか逃げて電話をくれたんだ。

一応緊急時に備えて、自動移行するようにはしているけれど、彼女の視点からも処理補助して貰えた上、物理的な重要物を外に持ち出して貰えたのは、不幸中の幸いだった。

何より、あの目障りな青色が燃えてくれたことが一番嬉しいよ」


玲は辛辣なことを言って、笑っている。


こいつもかなり、氷皇に頭にきていたらしい。


それ故、芹霞に対する想いは募っているのだろう。


俺に対しては影のまま、芹霞に対しては光になろうとしている。


隠していた"玲"を表に出そうとしているのが判るから。


それを俺は昔から推奨していたのに…いざその片鱗が見えると、動揺してしまう。


焦って、芹霞を引き離したくて仕方がなくなる。


――女の子ならイヤだって言う人いないと思うけれど? 


――何たって"白い王子様"だからね



心を隠す"微笑"という仮面を外した玲の顔。


芹霞が、昔からそんな"玲"の解放を強く望んでいたことを知っているから。


俺は芹霞の"王子様"になりたくて。


8年努力してきて。


だけど同時に玲も・・・"王子様"であるのなら。


玲の天性に、俺の努力は敵わないということか?


俺の強みは、"永遠"と"次期当主"。


恋愛が"永遠"の終わりを招くという芹霞の主張を重んじるのであれば、俺が芹霞に愛を囁く限り、俺には…かつて玲から奪い取った、"次期当主"しか持ち札がないということで。