櫂Side
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玲が必死に切り開いた血路は…一瞬。


俺はその一瞬に、動いた。


玲を桜を残し置き――

逆転の可能性を持つ皇城翠を担いで。


走りながら何度も思った。


愛しい奴らを犠牲にして、俺は走る価値のある男なのだろうか。


心は切り裂かれそうに辛くて。


逆転の可能性を思い描いても、まるで心は躍らない。


時間は5分を切ったというのに。

最終地点は見えるというのに。


残した者達が俺は気になって。


緋狭さんの炎鳥が、攻撃的な鳴き声を響かせて追いかけてくる。


まるで緋狭さんの如き強大な存在感に、俺は全身総毛立っていた。

味方にするには心強いが、敵に回れば恐れるしかない。


伝説の神鳥、金翅鳥(ガルーダ)。


緋狭さんから逃れても、俺はこの鳥の業火に身を焼かれるというならば、やはりどう足掻いても…死すべきなのが俺の運命だというのだろうか。


俺の運命は、芹霞には繋がっていないということなのか。


悲しみと嘲りと。

俺は知らずに、笑っていたと思う。


その時――

玲の力を感じた。


視界が突如眩い金色から、見慣れた青い光に変わり行く。

青というより白の色。


これは…玲が生命を燃やす色。


思わず足を止めかけたが、俺は唇を噛み締めて走り続けた。

そこまでの玲の思いを、俺が無駄にするわけにはいかなかったんだ。


何という…凄まじい力の放逸。

ぞくりと、身が震えた。