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「朱貴――。

皆を…横須賀港まで連れて行けッッッ!!!」



そう叫んだ声音はいつもの煌なのに――

その瞳は…ちらちらと真紅色が混ざりつつあった。


思い出すのは2ヶ月前。


制裁者(アリス)の中核にいた藤姫により、煌は僅かな間…自意識を無くした。


櫂にはっきりと刃向かい、あたしに盛り…それを緋狭姉の腕環が元に帰した。


それは煌の暴走を制御する意味合いがあったのだとしたら…今、煌の手首には腕環はなく。


煌を制御出来るものが何もない。


「朱貴、頼むッッッ!!!」


振り返れば、朱貴が立っていた。


担いでいた凱を…乱暴に地面に投げ飛ばすけれど、凱に目覚める気配はなく。


それを見ていた銀色氷皇が、何の感慨もないような無表情さで朱貴に言った。



「ほう…そちら側につくか、朱貴。

良いのか? あの娘のことは…」



一瞬…朱貴の顔が歪んだように思えた。


あの娘…って、紫茉ちゃんのこと?


「俺は周涅に…そのオレンジの男が望む処に連れて行けと言われただけ。そいつが、横須賀港まで連れろというのなら、それは周涅の命令にも等しい」


命令――。


朱貴は…周涅の配下なの?


「それに…そいつの状態に気づけなかった俺としては、責任を感じるんでな。此処までなら…手の施しようも無い」


絶望的な台詞に…銀色氷皇はくつくつと笑う。


「当然だ。お前に判られるような、術ではない」


朱貴より凄いの、この銀色氷皇?


「何処へ行こうが俺は止めん。紫堂櫂や紫堂久涅がどうなろうと…興味もない。一緒に居たのは目的が被る部分があっただけ。


興味があるのはただ…BR002の採択のみ」


久涅と…つるんでいたのは、煌を手に入れたかったから?


制裁者(アリス)を…復活させたいから?


ああだとしたら。


煌を追い詰め、真紅の瞳にさせようとしているのは…この男のせい?