玲Side
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とにかく――

嫌な予感がしてたんだ。


櫂との電話を切った後、由香ちゃんが来る10分という時間が、こんなに長く感じたことはない。


10分が15分となり、20分となった時――


「駄目だ、もう待てないッッ!!!」


電話で由香ちゃんに、僕達が帰宅するまで何処かで時間潰していて貰うように連絡すればいいんだ。


そんな方法も思いつかない程、僕は慌てていたなんて。


自嘲しながら、上着を羽織って玄関に行った時、チャイムが鳴る。


それに応答せず、即座に直接ドアを開けた僕に、


「うわ、師匠!! 敵だったらどうするつもりだったんだよ…って、師匠なら一撃で倒せるか」 


由香ちゃんは仰け反って驚いていたけれど、


「師匠が慌てるということは、紫堂か神崎かの一大事なんだね? いいよボク留守番してるから。やっておくことは何?」


さすが由香ちゃんは、ボクの顔色だけで判ってくれたらしい。


「ごめん由香ちゃん、サーバーの処に残した紙に書いてあること、頼んでイイかな?」


「ああ、いいともいいとも。遅くなってごめんよ、師匠。外に変な女の子がいるから気をつけて。さっき絡まれて酷かったんだ。

それと…これ」


手渡されたのは車の鍵。


青い革のキーホルダーに、鍵がついている。


「氷皇の手紙は帰ってきたら渡すけど、紙と一緒に置いてあった。手紙の上にこれが置いてあって、矢印で『保険入ってないので、実費でヨロシク』って」


勝手に使っていいということか。


この事態すら見越していたというのか。


どんな魂胆かは判らないけれど、車を借りられるのなら正直、ありがたい。


「サンキュ。また連絡するから!!!」