煌はまだ帰ってこない。


櫂が目的地についたとしても…煌が成功して帰ってこない限りは、勝つことが出来ない。


煌が要となる。


そう…このままでは、久涅にそのことを感付かれてしまったら…煌まで危険に晒される。


あたしは、煌も守らなきゃいけないの。


だったらさ…久涅。


全てはあんたの思惑通りにコトは運んでるかも知れないけれど…今度はあたしと勝負しようよ。


あんたか気づくか、あたしが隠し通せるか。


あたし、守られてばかりの女じゃないの。


癪だけれど…

乗ってやるわよ!!!


「ほう? お前如き女が俺の元に来て、何をする?」


下卑た笑い。


櫂が必死にあたしの名前を呼んでいる。


「何でもするわよ、あんたの望むことは!!!」


あたしは櫂を無視して、久涅を睨み付けながら吐き捨てた。


「俺の…玩具になるのか?」


やっぱり、最低男の考えは最低だわ。


だけど仕方が無いね。


櫂を守る為ならそれくらい…


「いいわ、なる「駄目だッッッ!!!」


掠れた声で叫んだのは玲くんで、玲くんはあたしの腕を掴んだ。


「駄目だ。絶対、駄目だ、芹霞。離れるな、僕から離れるんじゃない!!!」


それは悲痛に歪んだ顔で。


あたしの腕は、握力で捻り落とされそうに痛い。


それでもあたしは毅然と、玲くんを見つめた。


「玲くん…お願い。判って」


「判りたくないッッ!!! 嫌だから。絶対させやしない!!!」


あたしは微笑んで…そして真顔になった。


「玲くん。玲くんを迎えに行った櫂と煌の想いを無駄にしないで。こんなことで時間を潰して時間切れで終わらせる為に、皆で玲くんを迎えに行ったわけじゃない。玲くんだって、何の為に危険を冒したの? 聡い玲くんなら…今の状況、判るよね」


玲くんは、苦しそうに目を細め、ぎゅっと唇を噛み締めた。