部活の準備や他クラスの人を待っている人たちで、廊下はまだ騒がしい。
息苦しさを感じて、ネクタイを少しだけ緩めた。

三階にある僕達二年生の教室から生徒昇降口までの最短ルートは、科学部が使う部屋の前の階段を使うことだ。

人ごみの中をテレビとかクラスの人の彼女とか、そんな他愛ない話をしながら、歩いた。

「星夜、そういえば…」

「何?」

階段近くの廊下で、ふと委員長の方向に向き直ったその時、

背中に衝撃を感じた。

「あっ……!」

と思った次の瞬間には、ガラスが砕ける音と共に、僕の身体は床に叩き付けられた。

「っ!」

「星夜、大丈夫か!?」


おもいっきり顔を強打した。鼻血が出るかと思ったけど、意外にものし掛かってきた重力は軽くて……

「あああ、あっ、ごめんなさいっ!」

僕の上に倒れ込んできたのは、背が低くて科学部の真っ白な白衣を身に纏った女の子だった。


頭を下げて必死に謝っている。僕よりその手に持ってる段ボールの中身大丈夫なのかな。さっき凄い音したけど。

「大丈夫だよ。君は?」

「だ、大丈夫です……」


その子が顔を上げた瞬間、
僕の呼吸は止まった。

世界中の時間が、
止まってしまったようだった。