暖かい布団、まだ眠っていたい。
あ。でも、今日って学校休みだっけ……、母さんが父さんの弁当作る為に起きてるから、もう少ししたら起こしに来てくれるんだろうなあ。

そっか、もう父さんも母さんも居ないんだっけ。
他に何か忘れているような……。


「……支払い……!」

起き上がると、以前の俺の部屋じゃなければ、今の黴臭い畳でもない。

ふわふわの毛布、天井はシャンデリアがぶら下がっていた。


「お目覚めですか。」

スーツを着てぴっちりと紙を七三に分けた、四十代の男が45度の角度でこちらに頭を向けている。


「俺、仕事先で倒れたはずでしたけど……」

疲労で倒れるとは情けない。


「はい。客人である、我が家の主人にアルコールをぶちまけました。」

……思い出した。


「弁償します……」


「そのことで主人が話があるそうです。」

使用人に案内され、応接間らしい観音開きの扉から入る。


主人らしき男は腕を組み、こちら側を見ている。
新しく着替えたであろうスーツを身に纏い、年齢は30前後といったところか。


何の苦労も知らないで育ったエリート、俺なんかとは住む世界が違う。