「椿、か。私はお前が気に入ったよ」 いきなりそう言うと、スーツのポケットから医療用の眼帯を取り出し左目にそれをつける。 「近いうちにまた会うだろうから、私の名前はそのときに教えてやる」 私の耳元に唇を寄せてわざと一言一言をはっきり発音するもんだから、いよいよ私にも限界が来てその場に座りこんでしまった。 その姿を見て満足したように笑ったその人は、ゆったりとした動きで階段を上っていく。 私はその姿をただ見ていることしかできなかった。 ―――これが、出逢い。 あの人との出逢いだった。