私のために、自分の事は後回しにして。

ビラの犯人を突き止めて、健先輩に土下座して。

真実を知ったら、ますます自分を責めて。

それでも、全然平気な顔でいる晴人。

いつも隣で支えてくれた、優しい、不器用な私の兄。


ヒナの事があって、思った。

してもらう事ばっかり考えてたら、いけない。

私は晴人の力になりたい。

そう思って、三井先輩に協力してもらって、結構良い外見になったのに……真面目に警備員の代わりやって、一歩も里美先輩に近づかないし。

まさか普通に送って、何もせずに帰ってきたりしないだろうな……。


「コラ、美人が台無し」

「ひゃっ」


悶々と考えていたら、健先輩に眉間を指でこすられてしまった。

目を開けると、メガネの奥の茶色の瞳が、優しく笑っている。


「話をするなら、寒いから移動しよう」

「あ、はい……どこにします?ファミレスだと混んでるかな……」


考える私に、健先輩が悪い顔で提案する。


「何時間いてもタダで、絶対補導されないところがあるよ」


それって、まさか。


「……間宮家だけどね」


やっぱり!


「お父さまは……?」

「雪で電車が止まったから、会社に泊まるって」


そう言って、今さっきメールを受信したのであろうスマホを、手の平で踊らせて見せた。


「そ、そうですか……」


それって、それって。

どうリアクションしたら良いんだろう……。

晴人の事なんてどこへやら、一瞬で健先輩の事しか考えられなくなってしまう。


「……冗談。急すぎるよな。送っていくから、行こう」


健先輩は意地悪が成功した満足そうな顔で、私の手をとった。


「もう……」


またからかわれちゃった。

健先輩は、ずっとこんな感じ。

私は振り回されてばかり。


「行っても良いですよ」

「ん?」

「友達のところに泊まるって言いますから。せっかく、クリスマスだし」

「……そう」


また笑われるかと思ったのに、健先輩はあっさり方向転換してしまう。